2026年4月27日。
入院当日を迎えました。
手術の内容は、術中の判断によって変わる可能性がありました。
食道の下部と胃の上部を取る手術で終われば、入院は1週間ほど。
もし食道を全部取る手術になれば、2週間ほど。
さらに合併症が起きれば、入院が延びることもあります。
そのため、荷物はかなり多めでした。
入院生活に必要なものに加えて、仕事ができるようにするための荷物も持っていきました。
今回の入院には、妻も付き添ってくれました。
病院に着くと、まず入院手続きです。
3週間ほど前に、内視鏡手術を見送ったときの1日だけのプレ入院を経験していたので、手続き自体には少し慣れた感じがありました。
ただ、今回は外科病棟です。
前回入院した内科病棟とは場所が違います。
大学病院の中を、迷路のように歩いて外科病棟へ向かいました。
途中で「ICU」と書かれた場所が目に入りました。
その文字を見ただけで、急に緊張が強くなります。
「次に外に出られるのは、いつになるのだろう」
そんなことを考えてしまいました。
セキュリティカードをかざして病棟に入り、ナースステーションで今日から入院することを伝えました。
入院の説明を受けたあと、病室に案内されます。
外科病棟は4人部屋しかないことは事前に聞いていました。
病室に入ると、部屋の中に洗面台とトイレもありました。
夕方には、主治医の先生から最終の手術前説明を妻と一緒に受ける予定です。
それまで妻には一度帰ってもらい、私は入院着に着替えました。
明日の手術後は、しばらく体を自由に動かせないはずです。
そう思い、持ってきた荷物をできるだけベッドから手が届く範囲に配置しました。
テレビにイヤホンをつなぎ、スマホの充電器を差し、必要なものを取り出しやすい場所に置く。
術後の自分が少しでも困らないように、あれこれ考えながら準備しました。
それが終わると、急にやることがなくなりました。
病室はとても静かでした。
同室の人がいるのか、いないのか分からないくらい静かで、こちらが少し音を立てることさえ申し訳なく感じるほどでした。
時々、看護師さんが来て血圧や体温を測ったり、普段飲んでいる薬を回収したりしました。
それ以外は、基本的にただ時間が過ぎていくだけでした。
幸い、ベッドは窓際でした。
外が見えることだけが、少し救いでした。
時間はあります。
でも、心はまったく落ち着きません。
前回の内視鏡手術のときのように、今回の外科手術が延期になることはおそらくない。
そう思うと、いよいよ本当に手術を受けるのだという実感が少しずつ迫ってきました。
スマホで映画でも見て時間をつぶそうかと思いました。
でも、集中力が続きません。
結局、ヒーリング音楽を流して、ただ気持ちを落ち着けようとしていました。
その途中で、新人の看護師さんが来て、お腹の毛の処理と、おへその掃除をしてくれました。
自分のおへそを他人に掃除してもらう日が来るとは思っていませんでした。
入院というのは、こういうところから少しずつ日常ではなくなっていくのだなと思いました。
そして18時。
主治医の先生から、手術前の最終説明が始まりました。
妻は17時45分ごろに病院へ戻ってきてくれました。
二人で説明室に入り、先生の話を聞きました。
説明では、これまでの検査結果をもとに、手術内容について改めて話がありました。
以前から聞いていた通り、最初は食道下部と胃の上部を取る手術で開始する。
ただし、術中の判断によっては、食道を全部取る手術に切り替える可能性もある。
その説明を、もう一度受けました。
また、術後に起こり得る合併症の可能性や、死亡する確率についても説明がありました。
今は一般的な数字だけではなく、検査結果などをもとにした色々な確率も示されました。
私の場合、死亡する確率は1%以下だったと思います。
手術時間についても説明がありました。
食道下部と胃の上部を取る手術で終われば、8時間くらい。
食道を全部取る手術になれば、10時間くらい。
その後、たくさんの同意書にサインをしました。
先生は手術前日の夜にもかかわらず、1時間以上かけて丁寧に説明してくれました。
説明が終わると、いよいよなのだという緊張がこみ上げてきました。
病室に戻ると、夕食が用意されていました。
明日の朝から手術なのに、全部食べていいのだろうか。
そんなことを考えました。
そういえば、手術前に浣腸をして全部出す、というような説明もありませんでした。
「もし、術後に動けない状態でトイレに行きたくなったらどうしよう」
そんなことまで考えてしまいます。
それでも、結局は食欲に負けました。
夕食は8割くらい食べました。
「明日の手術前までに、全部出してしまえば大丈夫だろう」
そう開き直ることにしました。
食後、明日の今ごろ自分はどうなっているのだろうと考えると、また不安がこみ上げてきました。
そんな時間を過ごしていると、突然、看護師さんがやってきました。
「明日の手術で、先生からも説明があったと思いますが、食道を全部取る手術になった場合はICUに入っていただきます」
そう言われました。
さらに、ICUに入る場合は持ち込める荷物が限られるため、荷物すべてに名前を貼る必要があるとのことでした。
突然のことで、少し混乱しました。
言われるままに、持ち込める荷物に名札を貼っていきます。
そして看護師さんから、さらに説明がありました。
ICUに入る場合は、戻ってくる病室も変わる。
そのため、荷物はいったん家族に持ち帰ってもらう必要がある。
まさかそんなことになるとは思っていませんでした。
私は、手術後に動けなくなっても困らないように、ベッドの周りに荷物を配置したばかりです。
それを今度は、全部かばんに戻さなければなりません。
慌てて家族にも連絡しました。
結局、このとき荷物を全部しまったことが、術後にいろいろと苦労する原因になります。
手術前日の夜は、静かに過ごすはずでした。
でも実際には、説明、同意書、夕食、ICUの準備、荷物の片付けと、最後まで落ち着かない時間になりました。
そして、そのまま手術前日の夜を迎えました。
明日の朝、手術室へ向かう。
術後に目が覚めたとき、自分の体がどうなっているのかは、まだ分かりません。
食道を残せているのか。
それとも、食道を全部取ることになっているのか。
その答えを知らないまま、私は手術前日の眠りにつきました。
