内視鏡手術の日が決まってからの2週間は、仕事の調整に追われる日々でした。
入院期間は1週間の予定でしたが、時期は4月。
社内の人事異動が行われた直後に、いきなり不在になることになります。
管理職という立場もあり、自分がいないことで影響が出そうなところには、先に状況を伝えました。
入院前に対応できるものは前倒しで対応し、入院中や退院後に回せるものは調整をお願いしました。
また、万が一入院期間が延びた場合に備えて、病院からでも最低限の仕事ができるように、ノートパソコンや通信環境も準備しました。
一方で、入院そのものは人生で初めての経験です。
何をどこまで準備すればいいのか、正直よく分かりませんでした。
ただ、入院着やタオルなど主要なものはレンタルできるようだったので、それ以外に必要そうなものだけを準備しました。
少し迷ったのが、下着の枚数です。
入院中は毎日交換するのか。
毎日シャワーを浴びられるのか。
そもそも手術後はどのくらい動けるのか。
そんなことを考えながら準備していました。
しかし、この心配は、結果的にすべて取り越し苦労になってしまいます。
このあと、予定していた1週間の入院そのものが、まったく違う形になってしまうからです。
そして迎えた、2026年4月6日。
入院と内視鏡手術の日です。
予定では、9時30分に入院受付へ行き、入院手続きを行うことになっていました。
混雑を想定して、少し早めの9時頃に病院へ到着しました。
早めに入院手続きは済ませることができましたが、病室に入れるのは10時以降とのこと。
結局、その時間まで待つことになり、10時過ぎに病棟へ移動しました。
病棟の入口では、セキュリティカードをかざして中に入ります。
ナースセンターで、今日から入院することを伝え、入院についての説明を受けました。
初めての入院だったので、分からないことだらけです。
というより、何が分からないのかも分からない状態でした。
看護師さんの説明を聞きながら、分かったような気になり、そのまま病室へ案内されました。
希望していたのは6人部屋でしたが、空きがないとのことで、差額ベッド代が発生する4人部屋になりました。
病室に入ったときの第一印象は、思っていたより広い、というものでした。
その後、レンタルセットについての説明を受け、入院着に着替えました。
荷物から必要なものを出し、ベッド周りを整えながら、手術までの時間を過ごします。
しばらくすると、12時頃に看護師さんから声をかけられました。
「12時30分頃に手術のため内視鏡センターへ移動しますので、着替えて準備してください」
いよいよ内視鏡でも手術が始まる。
そう思うと、緊張が一気に高まっていきました。
12時30分頃、看護師さんに連れられて内視鏡センターへ向かいました。
2週間ほど前に検査を受けたときと同じように、待合室でお腹をきれいにする薬を飲み、喉の麻酔の処置を受けます。
「これから癌を取るんだ」
そう思うと、顔も表情もかなり硬くなっていたと思います。
しばらくして名前を呼ばれ、処置室に入りました。
緊張しながら処置台に横になり、左肩を下にして体勢を整えます。
点滴がセットされ、血圧計をふくらはぎに巻かれ、体にいろいろなものが取り付けられていきました。
実は、このあたりの記憶はかなり曖昧です。
それくらい緊張していたのだと思います。
「それでは、もう少ししたら眠くなりますね」
そう言われたあと、すっと意識がなくなりました。
次に意識が戻ってきたとき、時間はあっという間に過ぎたように感じました。
周りで人が話している声が聞こえます。
「あれ? もしかして処置中に目が覚めてしまったのか?」
「これから痛いのが来るのか?」
一瞬、そんなふうに思って焦りました。
すると、先生に名前を呼ばれました。
私は目を開けて、先生の顔を見ました。
そして次に先生から出た言葉に、耳を疑いました。
「2週間前に内視鏡で見たときより、患部の赤みが強くなっています」
「そのため、内視鏡での処置は中止しました」
一瞬、何を言われているのか分かりませんでした。
先生は続けて説明してくれました。
「この状態で内視鏡手術を行っても、後遺症が残る可能性があります」
「また、結局あとから追加で手術が必要になる可能性が高いと思います」
「2週間で癌が急に進行したとは考えにくいので、おそらく状況自体は2週間前と大きく変わっていないと思います」
「今日は、よりしっかり見えたということだと思います」
そして、
「いったん明日退院して、外科で治療を進めることになります」
と言われました。
私としては、眠って目が覚めたら、今日で治療が一段落していると思っていました。
それが、まさか内視鏡手術が中止になり、外科へ移ることになるとは思ってもいませんでした。
治療が進むどころか、振り出しに戻ったような感覚でした。
かなりショックでした。
それで、私の中で何かがはじけたように、もう1分でも1秒でも早く治療を進めたいという気持ちがありました。
先生に、
「外科に移った場合、いつ手術してもらえるのでしょうか?」
と尋ねました。
ただ、消化器内科の先生からは、具体的な日程までは分からないとのことでした。
そのうえで、
「外科の先生には、今日の状況を伝えておきます」
と言ってくれました。
こうして、その日の内視鏡手術は中止になりました。
病室に戻ってからも、ショックはなかなか抜けませんでした。
今日で治療が一段落すると思っていた。
1週間入院して、退院後は少しずつ回復していくものだと思っていた。
それなのに、何も取らずに終わってしまった。
しかも、今後の治療方法は外科に移り、また詳しいことは分からない状態になってしまった。
頭の中が、また一気に不安でいっぱいになりました。
とりあえず家族に連絡し、内視鏡手術が中止になったこと、そして明日退院することを伝えました。
その日の夜、消化器内科の先生が病室に来てくれました。
明日退院するときに、外科の外来予約を取って帰ること。
外科の先生には、今回の状況を伝えてあること。
今後は外科で治療方針を決めていくこと。
それと、外科手術を行うために他に悪いところがないか念のため大腸カメラの検査を行うこと
そう説明を受けました。
そして翌日。
大腸カメラ用の下剤をもらって
退院手続きを行い、そのまま外科の外来に寄って、翌日の診察予約を取りました。
本来なら1週間入院するはずでした。
内視鏡で癌を切除し、そのまま治療が進むはずでした。
それが、入院して1日で、何も取らないまま退院することになりました。
予想していなかった展開に、ショックは大きかったです。
ただ、このときの私はまだ知りませんでした。
このあと外科で説明される手術の内容が、自分の想像よりもずっと大きなものになることを。

